兎徒然

うさぎと暮らす日々、ときどきアート

お風呂で読書「序の舞」

 

   ネット環境が整う時代になって、良かったことは活字に飢えなくて済むこと。私はニュースなどより個人ブログを読むのが好きだ。思いもよらないコアな話題を独自に掘り下げていたり、プロ顔負けのエッセイだったり、はー、そんなこと考える人もいるのか!?というブログまで、様々な個の人生の瞬きを垣間見ることができる。

   好きな文体はどうしても視覚情報が多いものになってしまう。それでいて、さらりと淀みない美しい日本語といった風情の文体がいい。

 

flemy.hatenablog.jp

 

 

   好きな作家さんは、宮尾登美子向田邦子梨木香歩(敬称略)。学生の頃から変わらず読み続けてきた。渋い趣味だね、うちのオカンも好きだよ、と言われながら…。

  若い頃は速読でぐんぐん世界観に入り込むような読み方をしたが、この頃はそんな作品に出会わないのと、心の垢がフィルターとなって逐一ツッコミをいれてしまうので、いくらか読むのが遅くなった。その分子細なところへ思い巡らせて作品一つをじっくり味わうようにもなった。

 

序の舞 (中公文庫)

序の舞 (中公文庫)

 

 

 

  先月から、お風呂で読み続け年始に読了したのが宮尾登美子著「序の舞」。読むのは3回目ほどだが、前回読んだ時よりも京都の地名に明るくなったこと、日本画に深く興味を持ったことで読み方も変わった。

   なぜお風呂で読んでいるかはコチラ

 

 

flemy.hatenablog.jp

 

  宮尾登美子さんは1926年生まれ、2014年逝去。流麗な文体で、史上の著名人をモデルに、時代考察、文化、職業を緻密に調べ上げた著作で受賞も多数。映画や大河ドラマの原作となったものも。

  上記でふきちゃんが齧っているのが「序の舞」。日本画家、上村松園の人生を追った作品で、上品な文体とは裏腹、ドロンドロンのでろんでろんの女の性を爆発させ猪突しながら、画業では高潔な作品を残していく。

 

もっと知りたい上村松園―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

もっと知りたい上村松園―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

 

 

  松園さんの絵って一見は、はんなり上品やわぁ、という印象なのだが、見れば見るほど、この人絶対激しい人やわ!根性座ってへんと描かれへんわ!と思う。思っていたけど、本の世界では想像をはるかに凌駕している女がいた。

  私、絶対に友達になれんタイプやわ…。

 冒頭そう思ったら、終盤で生涯にかけて特別な女友達がいなかったと。そうやろなぁ、と納得。

  作品では一応主人公は津也さんと名を変えてあり、フィクションの体裁をとっているのだが、日本画が好きな人なら津也の相手が誰かも想像がつく。

  画業一筋、女の画家の道を拓いた、はい、それならお話になりません…津也さん、めちゃくちゃ恋愛体質なのだ。好かれた好青年に両想いと匂わせる愛い態度をとりながら、画塾の師と寝る。どんどんはまり込み妊娠出産、里子に出した子は亡くす。画業に恋愛が絡んでメタメタになりながら、またも師事する別の画家と恋に落ちる…その相手が洋行している間に、前の男と関係を持ち、私生児として出産。

   昼ドラばりの激しさ。物語となるのは私生活では煩悩、人間関係に身を振り乱しながら、汚いものは全てふるい落とし、不惑の恋の相手への恨みつらみもまた昇華し、作品にしていく津也の画への情熱。        

   人間関係とは対照的に、宮尾さんの着物好きの目で描かれた明治の女性の暮らし、京の街並みは鮮やか!前のめりに足早な津也が三条縄手を駆けていく様が克明に浮かぶ。

 

   宮尾さんを偲ぶ一冊。素敵な着物姿がたくさん!

風韻抄 宮尾登美子の仕事 写真と文で綴る作家の心象

風韻抄 宮尾登美子の仕事 写真と文で綴る作家の心象

 

 

   

  師匠が墨やら絵の具やらを擦るように津也に居残りを命じるが、それは口説きたいが為の罠。画家同士の軋轢、死の床での財産奪い合い、と京都画壇を生きる人間関係のイヤらしさが存分に描かれている。それも京都特有の、表に見せへんネチネチ感が上手く設定されている。この本の私の中のテーマはこれ。おおっぴらにやらへんけどが我が強い京都人、ここいう人おるわーと実感がこもる。

   松園の画集片手に読み進めば、一層艶やかに津也の激しい人生が立ち昇る。

  

  濃い読書だった。心身共に疲れ果てる12月には向かない一冊だったかもしれぬ。

 

  年をとって哀しいのは、こういった作家さんの逝去を知ること。宮尾登美子さんの著作が増えることはもう無い。

  

  それでも、また10年経ったら違う作品に見えるかもしれない。津也の心情に切なく寄り添う時が来るかもしれない……んー、ないかな…。