兎徒然

うさぎと暮らす日々、ときどきアート

絵画表現の追求ー小学1年ー後編

  前回からの続き

 

flemy.hatenablog.jp

 

 気持ちのスイッチを切ってしまえば、少し楽になった。

 仲良くしなきゃと思わなければ、女子の輪に入れなくても特に困ることは無かったし、先生にわかって欲しいと思わなければ、それとなく周囲を観察して外れた行動をとらないでさえいれば、私は大人しい読書好きの生徒であれた。

  意地悪を言われても、グループに無理している方がしんどかったので、自ら孤立するような行動をとった。

  ただ、スイッチを切ることで、私はストレスを全部内に内に押し込めてしまった。そのためか便秘と下痢を繰り返すようになった。今でいうと過敏性大腸炎である。これは中学を卒業するまで続いた。

  よく、昔話に花が咲き、あー子どもの頃に戻りたい、なんて言う人がけれど、私は二度と義務教育の現場に戻りたくはない。

   本当によく通った。我慢した。

   あの頃の自分を労ってあげたい。

   

  授業中は殆ど落書きに費やしていた。先生が来るとノートをとっているフリをしていたが、バレていただろうと今では思う。

  好きな漫画の絵のテクニックを真似て、自分なりに描いては消し、描いては消していた。

  消しゴムばかりがやたらと減った。

  それぞれの漫画家のお得意の表現を研究しては、技術を磨くことが日々の喜びだった。

 

  小学1年の最期の図工の時間、校舎の外へ出て好きな物を描くというテーマが与えられた。

  私はあんまり人が来ない中庭に行って、ひょうたん池のへりに腰掛けた。その場所にいたのは私一人。足元にタンポポがひとつ咲いていた。気の早いタンポポは、春まだきの肌寒い中庭で所在無げに見えた。

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   タンポポを描こうと決めた。教室の掲示物は剥がして綺麗にしたから、貼りだされない。この絵はもうだれにも見られることは無い。

   私はスイッチを入れて、タンポポと対峙した。

   何度もみたことのある平凡な花の姿をその時初めて観た。地面からすいと生えた茎は、なかは穴が開いていて白い液体がつまっている。細い茎に色んな色が見えた。

  光が当たる部分は明るい黄緑で、反対側は暗い緑。それを2Bの鉛筆で濃淡を付けて塗った。すると茎がまるで紙の上に生えたかのようにみえた。

  花はひとつにみえるけれど、小さな花弁が集まって茎の付け根でぎゅっと結ばれている。葉っぱの形は難しかったが、ここでこの絵を台無しにするわけにいかない。集中して葉っぱのギザギザを必死で追った。

  最後に地面に落ちた影を描いた。

  地面に落ちる影以外にも、物体には陰の部分があることを認識した初めての絵。

 

  これが私の初めてのデッサンだった。

  描き終わると、まるで別の時空にいたかのような気がして、本当にこれを自分が描いたんだ…と感慨深く画板をみつめた。

  「すげーっ」

    背後からの声に振り返ってみると、クラスの男子が三人立っていた。敵で無い男子だったのでホッとした。

   三人は口々に私の絵を褒め称えてくれた。

   声を聞きつけて、先生と数名がやってきた。もう図工の時間が終わるので、私を捜しに来たのだ。

  私は画板を自分の胸にぺたんとつけた。

  さっきの男子が先生に私のタンポポの感想を述べている。

 「上手に描けた?」

  見せてと言われなかったのをいいことに、私は珍しくはっきり喋った。

  「この絵は今日、持ち帰れますか?」

 

  持ち帰った絵は、折紙で額を付け机の正面に飾った。

  

  私の中で世界を観る目が変わった、劇的な一日であった。

  

 

子どもが絵を描くとき

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