兎徒然

永富 月来子、絵描きです。うさぎと暮らす日々の由無しごとを綴ります。

「この世界の片隅に」

  「この世界の片隅に」の映画をunextで6月に観て、感想を書こう書こうと思っていてそのままになっていた。

  最近、テレビ放送されたため、ツイッターで色んな世代の人が反応していて、あらためて影響力のある作品だと思った。

 

この世界の片隅に

この世界の片隅に

 

 

 

  個人的にはこの作品は戦争映画ではなくて、戦時中を生きた、すずという人間、すずの豊かな感受性でみた景色を描いた作品だと思う。

  

  映画を観るより先に原作を一巻だけ先に読んでいたんだけれど、一番の感想としては〝絵描き〟の視点の伝え方が非常に巧いと感じた。絵描きの視点をとてもリアルに視覚化されている。

  すずは幼少期から絵を描くのが好きで、妄想や空想の世界で遊ぶ。

  私は、この感覚をわざわざ描いたのが凄いなぁと思った。

  あまりにも当たり前のことなので、とりたてて描くエピソードにもならないと思った。でも、知人やSNSでの感想をよむと、この表現が非常にキャッチーで、読者はこの絵描きのすずの視点に新鮮さを覚え、ぐっと心を掴まれ、すずのみる世界に共感していく。

  

  絵描きがでてくる漫画は数あれど、ここまでナチュラルにみせたのは、こうの史代さんしか知らない。

  だって漫画家ってみんな絵を描く人なわけで、こういう感覚を客観的に捉えるのも難しいし、捉えていてもそれを面白いと感じる感性が無いと作品に盛り込まない。まずそこが凄い。

  

  すずはこの絵描きとしての想像力、創造力を戦時下でも発揮する。その暮らしの鮮やかなこと。食べられる野草を摘んだり、嵩増しご飯を炊くすずの描写には、戦争中の貧しさより、ワクワクさが伝わってくる。

  

  芸術は無駄なもの、暮らしの余暇があって成立するものなんだろうか?と小さな頃は感じていたのだが、生を愉しむ原動力であり、芸術家はその感性を作品に転換していく役目なのだと、すずをみているとおもった。

 

  もう一つ注目した点が、男と女の描き方が非常にシンプルであること。

  すずと周作のキスシーンはアニメーションにしてはえらく官能的に描かれている。2人は動物的に、自然に、身を寄せていく。性をいやらしいものでも、聖域にもしない。私はこのアニメを子ども達に見てほしいと思う。

  例えば、傘問答のエピソードは今はわからなくても、数年後にわかる、という子がでてくるだろう。泊まりに来た水原哲に妻を差し出す周作のエピソードも、複数の視点が絡まりあう。

  すずは周作の意向を充分にくみとりながら、哲への愛と情もやはりもちながら、自分の感情を優先させる。でも、何もなかったわけではなく、膝枕を許す。

  

 この作品にはそういったものが散りばめられていて、一つまた一つと、みるたびに新しくなっていく。情報量の多いこと、多いこと!

 (大人でもわからない人はいるだろうけど…。すずが妊娠したのに子どもが生まれないのは何故かと書いている人がいたが、すずの妊娠は勘違いで、晩御飯のシーンでわかるようになっている。明るいシーンだけれど、すずの身体はそれまでの健康を脅かされているという明確な描写である。)

  最後の哲のシーンは見る人によって解釈が違うとおもうが、ぼーっとしたままではなくなってしまったすずは、声をかけずに通り過ぎたのかな。

  

 

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)

 

 

  自分の視点や知見をはかる、個々人の中で成長していく作品ではないか、それがこの映画のもつ力だと思う。

  こうの史代さんは、これらの物語の枝葉を絶妙にコントロールしている。感覚的にやってるのか、計算ずくなのか…。また、映画化にあたって、これだけの盛り込みを、原作の雰囲気を携えたまままとめきる監督の手腕には賞賛しかない。

  何というか、感覚的な部分もあるが、ものすごく論理的に隙がなく構築されている。それによってすずのファンタジックな感受性の視点がリアルで生き生きとしてみえるのかも…。

  

  また、すず役の「のん」さんこと、能年玲奈さんの演技力に感嘆した。彼女はやはり並外れた演技者である。役者の芝居で、私が一番注目するのは表情や仕草ではなく、台詞回しなのだが、ここまで感情表現が強烈な若手は他に思い当たらない。能年玲奈の演技がもっとみたいと個人的には強くおもった。

 

  私は、16年間漫画を買っていない。でも「この世界の片隅に」は買ってしまいそうになっている…。

  

  

  

    

  

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